2017年10月9日月曜日

ヨコエビ上位分類が最近ヤバい件についてざっくりまとめ(10月:甲殻類学会に行ってきました)



 10月7日と8日、第55回日本甲殻類学会に参加してきました。

会場は東京大学大気海洋研究所柏の葉キャンパス。


 柏の葉キャンパスを訪れるのは恐らく2010年以来で、性的ニ形シンポジウムとプラベン学会だったと思います。なつかしい。

 ヨコエビは2題ありましたが、前身となる研究内容を既に知っていたり、過程をある程度知っていたり(などと言うと業界通っぽいですがたまたまっス)、おいまさかこんな研究があるのか的な印象よりは、待ってました的な感じで聞き入っていました。

 音楽フェスなんかでは演者とオフィシャルにサシではなかなか呑めないです。
 学会はやっぱり良いですね。





 甲殻類学会でもヨコエビの上位分類がどうなってるのかという話がありました。

 Lowry and Myers 2013, 2017に基づくヨコエビ界隈の新体制については小ブログでもSenticaudataの顔ぶれ新Gammarideaの顔ぶれ、そしてGammaridea消滅後の世界について扱ったことがありますが、備忘録代わりの羅列的な内容で、じゃあどうすれば的な疑問はあまり掘り下げていませんでした。



何がどうヤバい?

 ヨコエビ類上位分類の異変、大まかに以下のような感じです。


・Senticaudata亜目の設立 (2013年)
  旧ヨコエビ亜目の半分以上がごっそり持っていかれました。

・ワレカラ亜目の降格 (2013年)
 ドロクダムシ類がワレカラ類を含めるようになりました。

・下目,小目,族の概念を導入 (2013年)
 これが分かりにくかちゅう人がばり多かとです。

・インゴルフィエラ亜目の昇格 (2017年)
 論文のタイトルにもなっています。新目が建つというのはわりと事件です。 

・ヨコエビ亜目の解体 (2017年)
 Senticaudataができた後のGammarideaはわずか4年の命でした。




 従来の4亜目分類体系(左),6亜目の新体系(右)
伝統的分類体系はBarnard & Karaman (1991)に基づく。


 他の言語はどうか分かりませんがとにかく「ヨコエビ=ヨコエビ亜目」というこれまでの定義が覆ってしまい、日本語で「ヨコエビ」といった場合に何に対応するのか、よく分からない状況になってしまいました。ワレカラ亜目だったワレカラ類やクジラジラミ類をヨコエビと呼んでいいのかどうか。おかげでwikipediaでもよく分からない定義になっています。

 ヨコエビはヨコエビですよと叫びたいところですが、 端脚目全体として「ヨコエビの仲間」と解釈することの重要性が増した気がします。

 



みんなどうしてる?


 私の知る限りですが、日本では「触らぬ神に祟りなし」といった傾向が強く、採用していない論文は多いです。

 今年開かれた日本動物分類学会に参加したヨコエビストの方々(研究者・学生) に質問した結果。
Lowry & Myers 2013, 2017の体系を積極的に支持する意見はなかった。


 海外ではあちこちで引用されていて、浸透している感もありますが、是非に立ち入って議論している論文もないような気がします。




ぶっちゃけ良いの?悪いの?


 何てことしてくれたんだと、関係者が口を揃えてこれでもかこれでもかって言うので、ヨコエビギナーの方はんなもん無視すればいーじゃんと思われるかもしれませんが、6月に申し上げた通り、それなりの材料を使っていわばビッグデータ的な解析を行い、その生データをエクセルでオンラインジャーナルのサイトに論文本体と並べてアップロードしてるところから、既に万全の備えで叩きあう覚悟が伺えますので、それなりの扱いをしなければいけないところはご理解頂けるかと思います。


 感覚的には、長く親しまれてきた上科の枠組みを、下目や小目に格上げし、科のまとめかたをより複雑化した感じです。従って全体的な雰囲気として、上科はよりコンパクトになった一方、下目や小目の枠組みを導入したことによって類縁関係のニュアンスを伝達しやすいように腐心されている印象です。


 とはいえ、正直なところ形態分類のみで導き出した系統関係の仮説が容易にコンセンサスを得られるとは思えませんし、そもそも生態学などの研究で用いられる種や属レベルを基本とした分類において科より上がどうなっていようが本当に心底どうでもいいのです。科より上の系統関係を研究するのであれば、Lowry and Myersの体系に対比させて分子系統学的なアプローチを行うのが自然でしょうが、そういった場合でもない限り、いちいち上位分類の改造には付き合ってられません。種の記載などにおいても同様です。

 しかしながら、例えば以前の分類であれば、上科をナチュラルにスルーしていても特に問題はなかったものの、今回は従来よく用いられていた亜目という単位から作り替えられてしまったためスルーし難く、一種の踏み絵のような状況になっているのではないでしょうか。




どうすればいい?

 現状、深入りしたくない人は、目と科の間に何も挟まないようにしているみたいです。
 それぞれ安定していますし、基本的な分類の階級をおさえることはできているので、妥当な落としどころだと思います。






(参考文献)

- Barnard, J.L., G.S. Karaman 1991.The Families and Genera of Marine Gammaridean Amphipoda (Except Marine Gammaroids). Records of Australian Museum supplment 13, part 1,2, 866p.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2013. A Phylogeny and Classification of the Senticaudata subord.nov.(Crustacea: Amphipoda). Zootaxa, 3610 (1): 1–80.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1–89.
 

2017年9月30日土曜日

科博の深海展に行ってきました(9月度活動報告)



 2017年夏、上野にまた深海展がやってきました。

 前回は2013年でしたね。実に四年ぶり。


 ネットでは、ホルマリン漬けにがっかりだの人混みでよく見えないだの飛び交っておりましたが、どうやらヨコエビの展示もそれなりにあるらしいとのことで、会期も終わりに近づいた9月末、覆卵葉いっぱいに希望を詰めこみつつ、仕事を放り出して上野の地に降り立ったのでした。





  今回は3点のダイダラボッチAlicella giganteaをはじめ複数種のヨコエビが展示されていました。

ダイダラボッチその1。


ダイダラボッチその2。
隣にはイガグリヨコエビ
Uschakoviella echinophora



ダイダラボッチその3。
 隣にはカイコウオオソコエビHirondellea gigas

えびのおすし。

 今回の目玉の一つが、しょこたんによる音声ガイド。しかもその中でカイコウオオソコエビ役まで務めているという驚きの仕様。リピートしてしまいました。行かれていない方はたぶん金輪際聴く機会がないと思われますがこれは勿体ない。けもフレでいうとツチノコっぽい感じでした。


最近の音声ガイドはすごいっすね。

 しょこたん(カイコウオオソコエビ)は「エビじゃなくてヨコエビ」と断言していたのでこれは端脚類界隈に光明となるでしょう(合掌)。
 



10924mから有孔虫の記録があるものの、
カイコウオオソコエビが稼いだ深度は相当なもの。



 深海の生物を紹介する中で、新種記載についてコーナーを設けていたのが印象的でした。図録でもそのへんの話題を見開きで紹介するなど、分類学のエッセンスを伝えようとする姿勢があります。


トウホクサカテヨコエビTrischizostoma tohokuense


 このトウホクサカテヨコエビという種は福島県沖で得られた標本に基づいて2009年に記載されたヨコエビで、フトヒゲソコエビ上科に含まれます。帰宅してから調べてみると、なぜかちゃんと文献をDLしてあったのですが全く記憶にない・・・ (記載論文はここからタダで読めます)

 サカテヨコエビ科サカテヨコエビ属は咬脚が亜はさみ状となりますが、普通のヨコエビと逆向きになっていて、特徴的なグループです。魚類に体表寄生することを最近知りました(Freire & Serejo, 2004)。



日本海のヨコエビとして紹介されていたオオオキソコエビ。
 ”ユーリテネス科”ということで、上位分類に和名はない。

 オオオキソコエビEurythenes gryllusは、Ishimaru 1994で和名提唱されたもののしばらく放置されていたヨコエビの一つです。こちらの書籍でも「エウリセネス・グリルス」と学名のカナ表記で紹介されていましたね。表記も揺れていて全く顧みられていない感が・・・
 
 カイコウオオソコエビ,ダイダラボッチ,オオオキソコエビはどれも「巨大ヨコエビ」あるいは「超巨大ヨコエビ」と表現されてよく似ています。


 こちらは去年作ってみた見分け方です。



 すみません、正しくはこちらです。
深海ヨコエビ3種の見分け方

 オオオキソコエビは生時はかなり鮮やかな赤色をしているようです。

 このEurythenes属は他の種もまあまあ大きいですが、オオオキソコエビは中でも飛びぬけています。



 後半は地学パートで、やはり東日本大震災のメカニズムが解き明かされていく様子は、国立博物館として世に出さねばいけないという強い想いを感じました。

 ずぶの素人ですが、地震発生時のプレートの状態から津波が発生する関係性や、実際にズレた断層を発見してその周辺を調査して明らかになった数々の要因など、恐るべき先端科学の威力というか、映画『アルマゲドン』を彷彿とさせるSFチックなガジェットや映像にしばし酔いました。


 

 流れで常設展(地球館)も見学。


Gammarus sp. !?

 今回一緒に行ったヨコエビストのK氏と2人で「どう見てもGammarusじゃない・・・」としばし戸惑いました。ヨコエビ下目ですらない可能性が高いです。

 何とも言えませんが、体サイズ・形態的特徴・入手しやすさから総合的に判断して、Hyalella aztecaの線を洗ってみた方がよさそうです。

 まあ、この展示を見た人が「これがGammarusなんだ~」 と信じきって他で間違いを犯す可能性があるかというとたぶんないですが・・・ でも仮にこうやって写真を撮った人がいてこれをGammarusの資料として使うのはアカンですね・・・ 相談案件ですかね・・・



 
 日本館では植物画の企画展やマリモの展示を見ました。

 「フローラ ヤポニカ」というかなりそそられるタイトルがついていましたが、キュー王立植物園で展示された現在の日本人画家が描いた植物画の原画と、英国で刊行され続けている市民向け植物専門誌『Curtis's Botanical Magazine』の挿絵原画の二本立てでした。日本産の植物を描いているというテーマに沿っていたものの、キュー王立植物園にピンとこない人にはよく分からない展示だったのでは。挿絵はどれも精緻ながら個性があり、必要に迫られて画を書く形態分類クラスタからすれば、さすが画家としか言えません。12月3日まで。

 マリモの展示は、分子系統解析と分布の考察や個体群維持機構など最新の知見をわかりやすく伝えようとしていました。




 科博はあの講座以来でしかもその時は展示はほぼ見ていないので、かなりのご無沙汰でした。根を詰めて観たせいかものすごく疲れましたが、楽しい休日を過ごせました。



K氏のイタリア土産。

恐らくGammarus roeselii




(参考文献)

Freire P.R., C.S. Serejo 2004. The genus Trischizostoma (Crustacea: Amphipoda: Trischizostomidae) from the Southwest Atlantic, collected by the REVIZEE Program. Zootaxa, 645: 1–15.
-Ishimaru, S. 1994. A catalogue of gammaridean and ingolfiellidean Amphipoda recorded from the vicinity of Japan. Report of the Sado Marine Biological Station, Niigata University, 24: 29-86.
Tomikawa, K., H. Komatsu 2009. New and Rare Species of the Deep-sea Gammaridea (Crustacea: Amphipoda) off Pacific Coast of Northern Honshu, Japan. Deep - sea Fauna and Pollutants off Pacific Coast of Northern Japan , edited by T. Fujita, National Museum of Nature and Science Monographs, 39: 447-466.

2017年8月17日木曜日

ようぎしゃ フトヒゲソコエビ(8月度活動報告)



 ~ とう場人ぶつ ~



こうたくん
さいきんヨコエビとまりちゃんのことが気になっている男の子。


まりちゃん
ヨコエビのことがすきなちょっとおませな女の子。  
こうたくんとはかせのことはあまりすきじゃない。
今日はお休み。


ひろきくん
まりちゃんのきんじょにすんでいる。
あまりしゃべらないけど、するどい。



よこえびはかせ
ヨコエビの本やひょうほんをいっぱいもっている。
ヨコエビのことにくわしくて、何でもしらべて教えてくれるけど、
そのほかのことにはまるっきりきょうみがないんだ。




~~~~~~~


よこえびたんていだん


だい3話 ようぎしゃ フトヒゲソコエビ




(1)じけんはっせい


こうたくん:はかせ!こわい生きものがいるんだって!

はかせ:どれどれ、見せてごらん。





こうたくん:ウミノミっていうやつで、日本にもいるらしいよ!しってた?

はかせ:ホッホッホ、こうたくん、これはごやくじゃよ。

こうたくん:ごひゃく?ウミノミって番ごうがついてるの?

はかせ:ちがわい!えいごから日本語にしたときに、まちがえたのじゃ。

こうたくん:えー!じゃあこのウミノミはうそなの?

はかせ:まあまあ、これからたしかめるぞい。






はかせ:これはワシントンポストのニュースじゃよ。

こうたくん:しってる!ワシントンにあるポストでしょ!

はかせ:ちがわい!アメリカの新聞じゃよ。

こうたくん:えいごじゃん!

はかせ:アメリカなんじゃから、当たり前じゃよ。

こうたくん:なんて書いてあるの?

はかせ:とりあえず、日本語にしてみるかのう。



『肉食性の海の虫がオーストラリアの十代の若者の足を襲った「血が止まらなかった」』

 先週金曜日、
16歳のサム・カニザイはブリンストンビーチの水の中を歩いていた。それはこのオーストラリアの少年にとってよくあることだった。彼はメルボルンのこの地域で育ち、トライアスロンに参加したり、よく海で泳いだりするような、活動的な家族に囲まれていた。

 今日早くからのサッカーの練習で足には痛みがあり、それを冷たい海水で鎮めようと、アイフォーンで音楽を聴きながら、暗闇の中で30分ほど腰の深さほどの海に立っていた。

 水から揚がって間もなく、彼は足からの出血に気付いた。それもかなりの量だった。

”私たちは道路をはさんで海岸の向かいに住んでいます。”サムの父、ジャロッド・カニザイ氏はワシントンポストの取材にこう話した。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

”私たちはとても驚きました。”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”血が止まらなかった。”ジャロッドは言った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 湾に立っている間に噛まれたのを感じなかったとき、水によってサムの足は全く感覚がなくなるまで冷えきっていた。

 しかし、病院へ向かう途中、サムは”8割以上”痛みが増した、と話したという。

 緊急措置室でそう長く待たねばならないということはなさそうだったため、ジャロッドは息子に、痛みについて正直に看護士へ話すよう言い聞かせた。

 サムの足と血だまりを一目見て、病院のスタッフはすぐにサムを収容してくれた。心配はなかったと、カニザイ氏は言った。
 

(サムへのインタビュー動画)

 当初、サムの傷は医師と看護士を困惑させた。

 彼らは出血を手当てするとともに足を診察したが、誰一人サムの足が映画『ピラニア 3D』 に出てくるエキストラのように血塗れになった原因について、確かなことを言えなかった。

 20年ほどブリンストンビーチの地区に住んでいるというカニザイ氏は、サムの足の写真をフェイスブックに投稿し、近所の住民や友人にミステリーとして話した。

”私も、ご近所さんも友人も、医療関係者の誰も、こんな事件は聞いたことがなかった。”ジャロッドは言った。”報道されるまで、何人かは小さな出血をしたことがあっても、地方の医者に行っただけだったのです。”

 カニザイ氏は湾に戻り、サムが立っていたのと同じ場所に歩いて行った - 皮膚を護るためにウェットスーツを二重に身に付けた上ではあったが。

 プールのゴミ取り用すくい網と生肉を使い、彼は体長2mmほどのダニのようなものを何千匹も採集した。

”御存知の通り、病院の看護士と医者は、この生物に言及することも捕らえようと試みることもしなかったんですよ?”カニザイ氏は言った。”何がサムの足を食ったのか、誰かがその難題を解いてくれると思っていました。”


(サムの写真)

 メルボルンにあるヴィクトリア博物館はフェイスブックの記事で、海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスが、カニザイ氏が採集した生物を、分解されている肉から出る化学物質などに誘引される腐肉食性の小型生物であるフトヒゲソコエビの仲間の端脚類と同定したことを明かした。

 端脚類の仲間はしばしば”海のノミ”と呼ばれるが、傷が長引く原因にならないだろうと、彼女は言った。

”彼らは大群をなし、死んだ魚に群がり、瞬く間に食べてしまう”と、ウォーカースミス女史はABC(オーストラリア放送協会)に語った。

 彼女はこの事件はサムの”不幸”によって起きたものとして、ビーチを楽しむ他の人は同じような攻撃を怖がる必要のないことを付け加えた。

”食事をしている群れをサムがかき乱した可能性がありますが、彼らは普通はピラニアのように攻撃の期を待っていることはありません。”彼女はABCの取材に語った。”この甲殻類は死んだ魚の肉片に群がっていて、サムの足に接触したのでしょう。サムには恐らくすでに切り傷があって、彼らはその匂いや化学物質を嗅ぎつけたのです。”

(フトヒゲソコエビ類の動画)

 サムは快方に向かっている。

”確実に治ってきている。私たちは完治することを願っています。”父は言った。”彼が帰宅するとき、たぶん幾つか傷跡があるのでしょう。望んではいませんが。”


 サムは水を避けることは考えていない - もっとも、彼は水中の同じ場所に長い時間立つ前に2倍は考えなくてはいけない、と父は言っている。

”彼は大人しい子です。大人しくて落ち着いている。”カニザイ氏は言った。”これはちょっと人生が脇道に逸れただけ。些細なことです。息子の身に起こった本当に奇妙な一つの出来事に過ぎないのです。私たちは気持ちよく水辺に戻り、安心を感じることだってできます。”




こうたくん:かんじが多すぎるよ!

はかせ:シーエヌエヌのほうも読んでみるかのう。




『オーストラリアの十代の若者の足の噛み跡からの出血は、’海のノミ’によるものか?』

 オーストラリア メルボルンの十代の若者がビーチを訪れたところ、そこはホラー映画の世界へと変貌してしまった。真相はちょっとしたミステリーだが、おそらく小さな甲殻類によるものだろう。

 7ニュースによると、土曜日、16歳のサム・カニザイは友人とサッカーをした後、火照った筋肉を鎮めようと、慣れ親しんだブライトンデンジー通りの浜に足を浸していた。そして予期せぬことが起こった。

”歩いて水から揚がろうとしたら、ふくらはぎから足首に砂が覆っているのが見えて、強く振るうと、それは落ちたんだ。”彼はオーストラリアのセブンネットワークニュースに語った。だが、その時彼の足から振り落とされたのは砂ではなかった。

 サムの父、ジャロッド・カニザイは、サムが水から足を引き揚げたとき、大量の血を見たと言っている。

”サムはびっこを引きながらとても急いで家に戻ってきた。彼はすぐ外から私に電話をしてきた。そして彼は言った「父さん、外に出てきてくれないかな?」私が「どうして?」と訊くと、彼はこう言った「すぐに来て!」”

 彼らが少年の足に発見した、何千もの細かな噛み跡は、ピンで何度も突き刺したのとほとんど同じだった。大量の血もまた同様だった。

”私たちはこの細かい出血を拭き取ったほうがよいと考えたのですが、洗い流すことができないことがわかりました。”サムの母親、ジェーン・カニザイはセブンネットワークニュースに語った。

”血が止まらなかった。”サムの父はワシントンポストの取材に語った。”私たちはすぐに彼を病院に連れて行きました。”

 地方病院では医師たちが止血を試みていたが、サムの足にできた無数の針穴の大きさの噛み跡からは血が流れ続けていた。

 ジャロッドはワシントンポストの取材に、痛みについてサムは”8割以上”と言っていたと語り、病院のスタッフはサムの負傷に困惑していたと付け加えた。

 自ら調査すべく、ジャロッド・カニザイはウェットスーツを二重に着込むと、息子が足を休めていた場所へと戻って、生肉を餌に未知の有害生物をプールのゴミ取りネットに収めた。ワシントンポストによると、彼は体長2mmほどのダニのような小虫を数千匹採集した。

 その後、彼の信じる犯人が生肉の塊を貪る映像をユーチューブにアップロードした。

(フトヒゲソコエビの動画)

”奴らは肉片から血を啜り、表面に食らいつき続けたんです。”ジャロッド・カニザイはオーストラリアのセブンネットワークニュースにそう話した。

 ヴィクトリア博物館のフェイスブックの投稿によると、この甲殻類が出す抗凝血物質によって血が止まらなかったものと考えられるという。同組織の海洋生物学者ジェニファー・ウォーカースミスはカニザイ氏が捕獲したサンプルを検討し、”腐肉食性甲殻類の一種フトヒゲソコエビの仲間の端脚類”が容疑者らしいと結論づけた。

 投稿によると”端脚類はときに「海のノミ」と呼ばれる。”  ”メディアは加害者を「海のシラミ」と記述して報道したが、この用語は、甲殻類の別のグループである等脚類に対して用いられるものである。”
 端脚類は咬むことが知られている”自然にいる腐肉食生物”である。しかしながら、投稿によるとこのような類の負傷を引き起こすことは普通は無いという。

 ”血が止まらなかったことは抗凝血物質によって説明でき、また非常に冷たい水によってサムは噛まれたのを感じなかった”ことが有り得るという。

 投稿によると、彼らは有毒物質をもっておらず、ケガはそう長引かない、サムはすぐ回復するだろうという。

 オーストラリアのモナシュ大学生物科学部のリチャード・レイナ助教授は、フェイスブックの投稿で”海のシラミ”がサムのケガを引き起こしたとした。

 サムが足を齧られているのに気づかなかったことに対して、レイナ氏は”私の想像に余りある非開放創だが、長時間水の中に立ち続けたことが原因となったのだろう。”と記している。

”これは、あなたが蚊をとまらせるのに少し似ているが、もし何千匹もの蚊に腕の上で30分も食事を続けさせたなら - ただならぬ反応を示すだろうが、普通はそんなことをする人はいない。”そうレイナ氏は記した。彼は人々にさほど心配しなくていいと、加えてこう綴っている。

”水から出ていなければいけない、ということはないのです。”


 

はかせ:ワシントンポストとシーエヌエヌは、どっちも「うみのノミ」ということばがあるんじゃ。えいごでは「sea flea」と書いてあったものじゃよ。

こうたくん:じゃあウミノミは、ほんとうにいるの?

はかせ:ワシントンポストには「Sometimes referred to as “sea fleas,” the amphipods will not cause lasting damage, she said.」と書いてあったんじゃ。じつは、この「シ―フリー(sea flea)」は、ヨコエビのなかまのことなんじゃよ。

こうたくん:ウミノミはヨコエビってこと?

ひろきくん: ・・・こっちは・・・ヨコエビって・・・書いて・・・あるっす。



はかせ:ひろきくん、来てたのかい。

こうたくん:だれ?

ひろきくん:・・・まりちゃんの・・・きんじょに・・・すんでます。・・・あんのひろきです。

こうたくん:せちこうたです。

はかせ:ウミノミはヨコエビとはちがう生きもので、ひろきくんがおしえてくれたほうが、正しいんじゃよ。

こうたくん:ひろきくん、すごいじゃん!

はかせ:シ―フリー(sea flea)はざっくりしたよびかたなんじゃが、ニュースのしゃしんのヨコエビは、ウミノミのなかまとは、ぜんぜんちがうんじゃよ。


こうたくん:ふ~ん。





(2)ひぎしゃのなまえ



はかせ:ウミノミと書いてあるニュースは、かなりあるんじゃ。いくつかのニュースは、あとで気づいて、「ウミノミはまちがいでした」といって、あやまったりしておるんじゃよ。

こうたくん:どうしてそうなっちゃったの?

はかせ:まず、このニュースがどうやってつたわったのか、たしかめてみようかのう。

こうたくん:うん!




国内ニュース12本,海外ニュース15本を調査。
 記事に明記されていた出典を収録したが、3AWとHerald Sunは原典を確認できず。


はかせ:ネットにあるニュースをしらべてみたんじゃ。日本のニュースはだいたいシーエヌエヌワシントンポストを元にしておるのう。
 
こうたくん:そうなんだ!

はかせ:シーエヌエヌが「ウミノミ」と言いはじめたようなんじゃが、シーエヌエヌをそのままのせているヤフーライブドアのニュースにも「ウミノミ」ということばが出てきて、いっきに広まったのじゃ。ナショナルジオグラフィックカラパイアは、べつの新聞を元にしてるんじゃが、「ウミノミ」というなまえは、つられてつかってしまったようじゃのう。

こうたくん:へえ~、ニュースっていつも正しいのかとおもってた!


はかせ:「ウミノミ」と書いてないのが、ビービーシーと、ひろきくんがおしえてくれた、ギガジンなんじゃ。ビービーシーでは「フトヒゲソコエビ」と書いてあるし、ギガジンは「ヨコエビ」と書いてあったのう。

こうたくん:つられなかったんだね!


はかせ:おそらくそうじゃろう。ニュースの書きかたが、ちがったんじゃな。

こうたくん:つられないには、どうすればいいの?

はかせ:そうじゃのう・・・ たとえば左下にギガジンがあって、その上にエーエフピービービーというニュースがあるじゃろう。

こうたくん:うん!


はかせ:エーエフピーは、とてもれきしが長いニュースのかいしゃで、あんしんのブランドなんじゃ。サムくんの話も地元のラジオなどから聞いて、オーストラリアの海にくわしい人からも話を聞いて、ほかとはちがうニュースを書いているんじゃよ。それを元にしたギガジンも、シーエヌエヌやワシントンポストとはちがうニュースになっておるのう。

こうたくん:へえ~

はかせ:あと、よく見ると、右上のエイジという新聞は、赤い線が多いじゃろう。

こうたくん:たしかに!

はかせ:エイジはメルボルンの新聞で、4本の地方ニュースと、1本のしゃせつを出しておるんじゃ。地元の海でいつもおよいでいる人にインタビューするなど、ほかの新聞のやらないことをやっておるのう。ナショナルジオグラフィックは、いっしゅんつられてしまったようじゃが、エイジを元にして、ほかとはちがうニュースを書いていたんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!

はかせ:ナショナルジオグラフィックは、エイジなどがとりあげている「sea lice(海のシラミ)」「ウオジラミ」として、ほかの新聞がのせていない話もとりあげているんじゃ。


こうたくん:ほかの新聞がやらないことをやればいいんだね!

はかせ:それがそうでもないんじゃ。シーエヌエヌなどの日本のニュースに、つられずに書かれたハザードラボのニュースだと、「リシエンサス両生類(りょうせいる)」という、わけの分からないことばが生まれたりしておる。「amphipod(端脚類)」を「amphibia(両生類)」に、してしまったんじゃろう。

こうたくん:むずかしいんだね!

はかせ:そうじゃのう。とりあえず、日本でもともと「ウミノミ」と言っているものと、海外のニュースで「シ―フリー(sea flea)」と言っていたものとは、ちがうことはわかったかな?


こうたくん:うん…。でも、どっちもヨコエビのなかまなんでしょ?


はかせ:そうじゃのう・・・・。こうたくん、セミとカメムシが同じなかまというのは知ってるかな?

こうたくん:カメムシってあのくさいやつ?

はかせ:そうじゃ。セミとカメムシは見た目やくらしかたがちがうんじゃが、ハリのような口をもっているとか、よくにているところもあるから、おなじ目(もく)にぶんるいされているんじゃ。ヨコエビとウミノミも、そんなかんじなんじゃよ。


フトヒゲソコエビ(ヨコエビ)とウミノミ(クラゲノミ)の関係。Lowry and Myers (2017)に基づく。



こうたくん:じゃあ、このあぶないウミノミはヨコエビなの?ウミノミなの?

はかせ:「Genefor Walker-Smith, a marine biologist at Museum Victoria in Melbourne, identified the creatures Kanizay had collected as lysianassid amphipods, minuscule scavenging crustaceans that are attracted to the chemicals emitted by decaying meat, the museum said in a statement.」と書いてあるじゃろう。ウォーカースミスさんが言うには、これはフトヒゲソコエビというなかまのヨコエビなんじゃよ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは人を食べるの?こわーっ!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまはたくさんおるんじゃが、ふつうはしんだ魚を食べたりしておるんじゃ。

こうたくん:フトヒゲソコエビは日本にもいるの?

はかせ:東北のりょうしさんは「スムス」といって、海にしずんだしたいを食べる虫をよく知っているようなんじゃよ。ここには、そんな話が書いてある。あと「とやまわん」で、りょうしさんが魚がかかったあみをひとばん海に入れておいたら、ほねとかわだけになったという、そんな話がテレビに出たこともあったんじゃ。そのはんにんもフトヒゲソコエビのなかまじゃよ。

こうたくん:こわすぎじゃん!

はかせ:フトヒゲソコエビのなかまは、日本のすなはまでは、ほとんど見つからないんじゃ。

こうたくん:よかった~。これであんしんして海に行けるよ!

はかせ:海水よくのときには、クラゲやエイなどあぶない生きものも多いから、気をつけるんじゃぞい。

こうたくん:うん!



(3)けんしょう


ひろきくん:・・・でも・・・フトヒゲソコエビはほんとうに・・・はんにん・・・なんですかね・・・。



はかせ:ひろきくん、なかなかするどいのう。じつは、何とも言えないんじゃよ。

こうたくん:ええっ!?こんなに引っぱったのに!?

はかせ:ホッホッホ、すまんのう。ニュースには「ちが止まらなくなった」と書いてあったじゃろう?

こうたくん:そうだったかも…

はかせ:ちが止まらないのは、フトヒゲソコエビが「ちをかたまらなくするぶっしつ」を出しているから、という人もおるんじゃが、それはヒルのように、ふだんから「ちをすっている」生きものが出すもので、しんだ魚を食べているフトヒゲソコエビのような生きものが出すとは、思えないんじゃよ。

こうたくん:そうなの!?

ひろきくん:・・・ヨコエビのなかまについて・・・日本一か二か三か四のせいたいけんきゅうしゃの人が・・・このブログで・・・ニュースにダメ出ししてる・・・っすね・・・

こうたくん:すごい人がいるんだ!


はかせ:これはすごい人のブログを見つけたのう。じゃが、ユーチューブを見て「ナミノリソコエビ」と言っておる。 ナミノリソコエビ科は、2004年からほかのヨコエビも入ることになったんじゃが、もともとは、すなはまにもぐって小さなエサのカケラを食べているヨコエビなんじゃ。

こうたくん:ちがうヨコエビなの?

はかせ:フトヒゲソコエビとはちがうんじゃ。日本にいるものとくらべても、目はここまで大きくないし、こんなに力強くおよがないし、「生にく」にむらがったりはせんのじゃよ。

ひろきくん:・・・オーストラリアにいるのが・・・とくべつということは・・・ありませんかね・・・?

はかせ:そうじゃのう・・・すなにもぐるナミノリソコエビは今のところ12しゅいるが、中国、かんこく、日本、カナダ、アメリカなど北たいへいようだけにすんでおるんじゃ。今のところオーストラリアでは見つかっておらん、ということじゃ。あと、ABCなどの新聞には、ウォーカースミスさんは、サムくんのお父さんがあつめた「ひょうほん」をその目でたしかめてから、「フトヒゲソコエビ」という答えを出したと書いてある。このユーチューブのヨコエビを「ナミノリソコエビ」と言うのは、むりがあるのう。

こうたくん:なんだ~またうそか~。


フトヒゲソコエビ類とナミノリソコエビ類
太い触角など似ている特徴もあるが複眼の形状は全く異なる。


はかせ:それが、あながちウソとも言えんのじゃ。このブログでは、ヨコエビがとれたからといってケガはさせてないと思う、スナホリムシがやったのではないか、と言っておるじゃろう。たしかに、明らかにスナホリムシにかまれてケガをしたという話はネットで見かけるんじゃが、生きた人がヨコエビにかまれてケガをしたという話は、これといったものがないんじゃ。

こうたくん:え~!?

はかせ:これは、こうかくるいのけんきゅうをしている人が、フェイスブックでしょうかいしてくれた話じゃ。海外のけんきゅうしゃが教えてくれたらしい。



  このニュース記事を見てすぐ、私は博物館のコレクションにあるPseudolana concinna(スナホリムシ科)の標本のことを思い出した。

 これは1959年の夏にパース海岸にほど近いロットネスト島(西オーストラリア)で採集されたものだ。古い登記書類にはこのような備考がある ”水辺に座っていた小さな子供のペニスに取り付いて食らいついてた;非常に出血していた”。確証はないが、その小さな子供は、当時の西オーストラリア博物館理事長の息子だったと考えられる。


アンドリュー・ホジー氏(西オーストラリア博物館)の証言





こうたくん:ふぇぇ・・・っ・・・

はかせ:男子には、ちとつらい話じゃのう。これは、サムくんのお父さんが海にもどってフトヒゲソコエビをあつめてウォーカースミスさんに見てもらう前のニュースじゃが、この時に、うたがわれていたのが、スナホリムシのなかま(モモブトスナホリムシぞく)なんじゃよ。このニュースはオーストラリアのゆうめいなおいしゃさん、ドクター・クリス・ブラウンがフェイスブックでしょうかいして、ネットで広まったんじゃ。ほかにも、スナホリムシがあやしい、と言っている人はけっこういるんじゃよ。


こうたくん:ってことは、スナホリムシがやったの?

はかせ:それじゃあ、これまでのニュースやしょうげんを、まとめてみよう。

こうたくん:うん!

各メディアの報道より抜粋した専門家の意見。
Facebookへの投稿を記事に掲載したものなど、
メディアによる直接取材に基づかないものもあるが、特に区別せずに集めた。


はかせ:この中で、ヨコエビのろんぶんをよく書いているのは、ニューサウスウェールズ大学の「プアじょきょうじゅ」と、メイン大学の「ワットリングきょうじゅ」じゃのう。シドニー大学のはかせは、お父さんがつかまえた「ひょうほん」を見ないで「ニセスナホリムシ」ときめつけておるようじゃが、あやしいもんじゃ。

こうたくん:「きょうじゅ」や「はかせ」でも、分からないの?


はかせ:たとえば、サムくんの足に食らいついている時につかまえたら、何でキズがついたのか、なやむことはないじゃろう。

こうたくん:そうだね。

はかせ:おしいことじゃが、サムくんは「しんはんにん」をつかまえてないし、すがたを見てもいないんじゃ。ただ、「水から上がる時に足にすなのようなものがモヤモヤまとわりついていた」という話をしておるから、小さな生きもののしわざとかんがえてみよう。そうすると、やはりフトヒゲソコエビとスナホリムシが、ようぎしゃになるんじゃ。「はかせ」や「きょうじゅ」も、答えを出すために、もっと知りたいことがあると思っているはずじゃ。

こうたくん:なるほどね。

フトヒゲソコエビ類とスナホリムシ類の比較。
人を出血させる可能性は、スナホリムシ類の方が高い。
一方、サム・カニザイ君の近くにいた可能性が高いのは、フトヒゲソコエビ類である。
サム君に傷を負わせたことについて、
どちらも裏が取れている状態ではない。


はかせ:ところでこうたくん、ダイダラボッチの話をおぼえているかな?

こうたくん:えっと・・・大きいヨコエビはうそだったっていう・・・

はかせ:ちがわい!ダイダラボッチはたしかに海の中におるんじゃが、つかまえようとしても、ちょっと日がたったりすると、もうつかまらないという話じゃわい。

こうたくん:ああ、そういえば・・

はかせ:サムくんのお父さんはフトヒゲソコエビをたくさんつかまえたが、それがほんとうにサムくんが海に入っていた時にもいたのか、たしかめることはできないんじゃよ。

こうたくん:ほかにかまれた人は、ほんとうにいないの?

はかせ:サムくんのニュースが広まったあと、オーストラリアのクイーンズランドにある「ゴールドコースト」というところで、3年前に同じような生きもの「シーライス(sea lice)」にかまれた、ということがあったらしく、アデーレ・シュリンプトンという女の人の話が、オーストラリアの新聞に出たんじゃ。2015年には、ヴィクトリアにある「サンドリンガム」というところで、ニック・マリーとウィル・マリーという父子が、サムくんほどではないが、こまかいキズをたくさんうけていたんじゃ。この時はメルボルン大学「マイケル・キーオきょうじゅ」が、「シーライス(sea lice)」だったと言っていたんじゃ。

こうたくん:シーライス?カレーライスみたいなの?

はかせ:ちがわい!ナショジオの話にも出たじゃろう。この「ライス」はお米じゃなくて、「シラミ」のほうじゃ。ウオジラミのことを「シーライス」とよぶこともあるが、シーエヌエヌのニュースでウォーカースミスさんは、スナホリムシのなかまの「とうきゃくるい」のことじゃと言っておる。どのみち、ヨコエビとはちがうんじゃ。

こうたくん:ええ~!じゃあ、スナホリムシがはんにんじゃん!

はかせ:そうとも言えるんじゃが、シュリンプトンさんがかじられてケガをしているとき、あせっていたはずじゃから、スナホリムシヨコエビを正しく見分けていたとは思えんじゃろう?これも、はんにんときめつけることはできないんじゃ。

こうたくん:けっきょく、どっちも人を食べるってこと?



(4)さいはんのおそれ


はかせ:サムくんやシュリンプトンさんをおそったのは、どっちか分からんが、もしこうたくんが海でかじられるとすれば、スナホリムシの方かも知れないのう。

こうたくん:そうなの!?





ニセスナホリムシとフトヒゲソコエビ類の比較。
矢印は、大顎のナイフ状突起の有無を示す。
体長は、Auroi onagawaeが11mmで、
ニセスナホリムシは12~13mmである。
スナホリムシ類の大顎の切歯部および中間突起は、
Auroi onagawaeより発達していると考えられ、
より肉食に特化している可能性がある。



はかせ:ヨコエビやスナホリムシは、「大あご」をもっておる。これをつかって、食べものをこまかくするようなんじゃが、食べものによって、かたちはちがうんじゃ。「ワットリングきょうじゅ」が言っていたのも、これじゃな。


こうたくん:ふ~ん。

はかせ:スナホリムシのなかま(ニセスナホリムシCirolana harfordiは、「大あご」に大きなナイフのようなものがついておる。じゃが、フトヒゲソコエビのなかま(アウロイ・オナガワエAuroi onagawaeには、それはないんじゃ。おそらくじゃが、にくを食べるのがとくいなのは、スナホリムシの方なんじゃよ。

こうたくん:そうなんだ!



(5)そうさしゅうりょう


はかせ:けっきょく、はんにんのきめては、見つからなかったのう。


こうたくん:どうすればいいの?

はかせ:たしかなことを、1つずつ、つみかさねることが、ちかみちになるんじゃ。さっき、シーエヌエヌのニュースが日本でいろいろなニュースにそのままながしていた、という話があったじゃろう?

こうたくん:あったかも。

はかせ:シーエヌエヌは”「ウミノミ」原因か”という見出しだったんじゃが、ライブドアニュースは”原因はウミノミと判明”と、きめつけたんじゃ。おんなじニュースなのに、見出しだけ、おおげさに書いたんじゃよ。

こうたくん:ええー!?うそじゃん!

はかせ:ライブドアだけではないぞい。カラパイアはヨコエビのしゃしんを、ウィキペディアコモンズから引っぱってきたんじゃ。これはBathyporeia sarsi(バシポレイア・サルシィ)というヨコエビなんじゃが、「Amphilochideaあもく」のフトヒゲソコエビではなく、べつの「Senticaudataあもく」「Gammaridaかもく」のなかまなんじゃ。カラパイアはほかにも、「half an hour」を「30分」ではなく「一時間半」と言ったり、かなりざつなんじゃ。


こうたくん:ええーっ!?これもうそじゃん!


はかせ:「ウミノミ」というなまえも、よくしらべてみるとまちがっていたし、お父さんがつかまえたフトヒゲソコエビも、しらべてみると、はんにんとは言いきれないことが分かったじゃろう。あせって、おおげさに言うと、知らず知らずのうちに、うそをついてしまうこともあるんじゃ。

こうたくん:うん!帰ったらお母さんにも教えてあげようっと。







(参考ウェブページ)

- ABC. 'Sea bug' creatures behind bloody attack on Melbourne teen's legs identified as amphipods. (投稿:現地時間2017.8.7 15:27)
- abc 10 NEWS. Teen taken to hospital after dozens mysterious sea creatures bite his feet. (投稿:現地時間2017.8.7 14:30)
- AFP BB. 海に漬かって血だらけに、足に原因不明の無数の穴 オーストラリア.(投稿:日本時間2017.8.7 22:00)
- AFP BB.  海で両足血まみれの少年、原因は肉食小型甲殻類? 父親が写真公開.(投稿:日本時間2017.8.10 12:17)
- Au one. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- BBC news. Sea bug attack: Why was a wading teenager left covered in blood? (投稿:現地時間2017.8.8)
- BBC日本版.豪の16歳、海に足をつけたら血だらけに 出血止まらず.  (投稿:日本時間2017.8.8)
- BIGLOBE.  海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12 22:30)
- BUZFEED NEWS. An Australian Teenager's Legs Were Eaten By Sea Fleas And Everyone Is Traumatised. (投稿:現地時間2017.8.7 20:13)
- CNN. Are 'sea fleas' to blame for bloody bites on Australian teen's legs? (投稿:グリニッジ標準時2017.8.8)
- CNN日本版. 海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- Daily mail. 'He was in the wrong place at the wrong time': Expert solves mystery of exactly what ate teen's flesh when he went for evening swim at Melbourne beach - and why he was targeted. (発行:英国夏時間2017.8.7 11:25,投稿:英国夏時間2017.8.7 13:45)
- Dr. Chris Brown Facebook (投稿:現地時間2017.8.8 11:47)
- excite NEWS. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意).(投稿:日本時間2017.8.12)
- フジテレビ FNSアワード. 第19回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品 『不可解な事実 ~黒部川ダム排砂問題~』 (制作:富山テレビ)
- GIGAZINE. 海から上がった少年の足に出血を伴う無数の穴ができるホラー現象発生、その原因とは? (投稿:日本時間2017.8.8 17:00)
- ハザードラボ. 閲覧注意「血が止まらない!」ビーチで謎の生物に足を食われた少年 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 13:48)
- Herald Sun. Gold Coast woman recalls sea flea bites after Melbourne teen likely ‘eaten’ by critters. (投稿:現地時間2017.8.8 22:56)
- Herald Sun. Sea lice bite and draw blood from swimmers at Sandringham beach. (投稿:現地時間2015.8.6 2:17)
- Independent. Experts reveal why Australian teenager's legs were ravaged by 'meat fleas' on Melbourne beach.  (投稿:英国夏時間2017.8.8 10:36)
- カラパイア. 海の中にある恐怖。オーストラリアの少年を襲った人食いヨコエビ(小型甲殻類大量注意). (投稿:日本時間2017.8.12,訂正:日本時間2017.8.14)
- 駒井智幸  Facebook (投稿:日本時間2017.8.11 12:32)
- LIVE SCIENCE. Horror at the Beach: 'Sea Fleas' Dine on Aussie Teen's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 20:11)
- livedoor NEWS. オーストラリアで海に入った少年の足が血だらけ 原因はウミノミと判明. (投稿:日本時間2017.8.8 11:47)
- msn. Flesh-eating bugs at Brighton beach: What really ate Sam and why. (投稿:現地時間2017.8.7)
- National Geographic. Mysterious Flesh-Eating Sea Creature Causes Shocking Injury. (投稿:現地時間2017.8.7)
- ナショナルジオグラフィック日本版ニュース. 【動画】海で脚が血まみれに、犯人は?対策は? (投稿:日本時間2017.8.8,訂正:日本時間2017.8.9)
- 漁師の徒然なるブログ. 海の分解者 スムス. (投稿:日本時間2010.08.27 17:3'57")
- The Age. It's not a movie: Did marine critters eat Brighton teenager's legs? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Explainer: What are sea fleas anyway? (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Bitten teen's dad films Brighton Beach sea fleas enjoying a meal of fresh meat. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Age. Flesh-eating bugs at Brighton beach: What really ate Sam and why.  (投稿:現地時間2017.8.8)
- The Age.Flesh-eating sea fleas enter the great Aussie wildlife folklore. (投稿:現地時間2017.8.8)
- The New York Times. Mysterious Sea Creatures in Australia Chew Up Teenager’s Legs. (投稿:現地時間2017.8.7)
- The Washington Post. Flesh-eating sea bugs attacked an Australian teen’s legs: ‘There was no stopping the bleeding.’ 
- Time. Strange Sea Creatures Chewed Up This Teen Boy's Legs. (投稿:東部標準時2017.8.7 11:37)
- 超サーランピー.【取り急ぎ】オーストラリアの海辺で青年が「ウミノミ」に足を食われて血まみれ事故案件について、ご質問へのお応えと所感.(投稿:日本時間2013.8.13) 
- Wikipedia commons. File:Bathyporeia sarsi.jpg
- Yahoo! ニュース.海水に浸した両足が血まみれに、「ウミノミ」原因か 豪州. (投稿:日本時間2017.8.8 11:48)
- YAHOO! 7. WATCH: Mystery sea creatures devour meat after vicious attack on teen.  (投稿:現地時間2017.8.7)





(参考文献)

- Barnard, J.L., G.S. Karaman 1991. The families and genera of marine gammaridean Amphipoda (except marine gammaroids). Part 1-2. Records of the Australian Museum, Supplement 13(1), (2): p.1–866. 
- Bousfield, E.L., N.L. Tzvetkova 1982. K izucheniju Dogielinotidae (Amphipoda, Talitroidea) iz priborezhnijh vod severnoij chasti Tihogo okeana. In; Korotkebich, B.S. (ed.) Bespozvonochnije pribpezhijh biochenozov Sebernogo ledovitogo i Tihogo okeanov. Issledovaniya faunij morej L.: Zool. in-t AN SSSR. 29(37): 76-94. (in Russian with English abstract)
- Jo, Y.W. 1988. Taxonomic studies on Dogielinotidae (Crustacea - Amphipoda) from the Korean coasts. Bijdragen tot de Dierkunde, 58(1): 25-46.
- Lowry, J.K., A.A. Myers 2017. A Phylogeny and Classification of the Amphipoda with the establishment of the new order Ingolfiellida (Crustacea: Peracarida). Zootaxa, 4265 (1): 1-89.
- Ren, X. 2006.  Fauna Sinica, Invertebra. Vol. 41, Crustacea, Amphipoda, Gammaridea (I). Science Press, Beijing, China. 588 pp.
- Serejo, C.S. 2004. Cladistic revision of talitroidean amphipods (Crustacea, Gammaridea), with a proposal of a new classification. Zoologica Scripta, 33: 551–586.






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補遺(18 VIII 2017)




・コメント欄を通して指摘を受け、ブログ記事に対する「よこえびはかせ」のコメントを修正(赤字)。



2017年7月9日日曜日

端脚オフ報告(7月度活動報告)


 異例の干潟漫画・ガタガールの作者を交えて端脚仲間とワイワイしたい。

  アンフィポダーとしては誰もが夢見るシチュエーションかと思いますが、思ったより早くその夢が叶ってしまいました。

 

 潮が良いのと予定が合わせられそうなのとで、思い当たるツイッタラーと共謀して端脚オフを実施することになりました。

 フィールドはヨコエビの聖地・盤州干潟です。



 これぞまさしくという盤州干潟の泥干潟です。

 こういった場所で目視でヨコエビを探して歩くのはあまり得策ではないので、前浜に移動しました。


アンフィポダーの皆さま


 前浜干潟を進み転石やアオサのたまっている場所を物色しつつ、アマモを求めてかなり沖側に歩きました。

 転石をめくるとやはり安定のメリタ。

たぶんシミズメリタ Melita cf. shimizui
たぶんヒゲツノメリタ Melita cf. setiflagella


  漂着アオサは小さな潮だまりの中で煮えていたり、塊になって乾いていたりするものの、状態がよいものには何種かヨコエビが付着していました。

アゴナガヨコエビ科の一種 Pontogeneiidae gen. sp.
陸側から沖側まで、わりと広範囲でみられました。

ポシェットトゲオヨコエビ Eogammarus posjeticus
ある程度まとまったアオサがあると大型の個体が高密度で生息していました。


  ロープに付着したかなり大きなアオサの塊があり、その裏にはかなりのヨコエビがいました。


たぶんモズミヨコエビ Ampithoe cf. valida 
メリタヨコエビ属の一種 Melita sp. ♂ 
 フトメリタに似ているが・・・?

モクズヨコエビ類の一種♂ 

過去に盤州で得られている種の中ではフサトゲモクズProtohyale affinisに似る





 干出していないエリアに入ると、ようやくアマモのパッチが見えてきました。


Zostera marina


 ちょうど引き潮の時間にあたり、干潟面はワンド状に、水没部分と干出面が帯状となって交互に連続した状態です。

 水没部分を越えていくにつれてアマモ場の規模も大きくなり、沖に進むとアマモとコアマモが混生したような群落もありました。

Zostera marina, Z. japonica


  その他、干潟の上には三番瀬では見られない顔ぶれがそこかしこにいて、ヨコエビ探しの傍らではありますが、その動きを目で追ったりしていました。


 でもって、すごく暑い。


 汀線を越えて沖に出ても、海水は足湯のような状態でかなり高温でした。それもいつものことのようで特に変な腐り方をしている生物の死骸もなく、ヤドカリなど生き延びられる奴だけが潮間帯に留まって動いているような感じでした。



 沖側の海藻の間ではヒメドロソコエビParagrandidierella minimaが得られました。これは小原先生が関わっていた砂泥底の河口干潟でも出ている種で、今回の一つの成果です。

ヒメドロソコエビ Paragrandidierella minima

 複眼は白地に赤いドットが入っていてシャレオツです



 最干潮を迎えるころに浜に戻りました。


 沖合で汲んでおいた海水を利用し、水を張ったバットにハマトビをトラップして捕獲してみます。

 しかしメスが非常に多い

 ハマトビムシ類、特にPlatorchestia属はあまり易しい分類形質が見つかっていないものも多く、オスのみで形態分類の体系が構築されていたりします。他のヨコエビでは現場で識別するのにオスの形質が便利という例が多かったりしますが、今回の場合はオスがないと顕微鏡を使っても同定ができないかも…
 
 捕獲されるハマトビムシ類の性比の偏りを是正する方法は「オスを目視で識別して優先的に捕獲する」ことに限りますが、着地した状態から次の跳躍に移るまでの時間が、オスを見分ける時間より短いため、バットにトラップするなどの工夫がなければなかなか捕まりません。



ヒメハマトビムシ種群の一種 Platorchestia pacifica ♂,♀


 ヒメハマトビムシ種群が抱える問題については過去のブログでも触れましたが、今回はオス第2咬脚下縁の剛毛の有無によって同定しました。


 顕微鏡を使用せず、解剖もせず確認できる形質としては他に第3胸脚の腕節:前節の比であったり、尾節板の剛毛列数だったりしますが、これらは安定しないため、P. pacificaを記載した一人である森野先生も、胸脚や尾節板の形質は使わず、オス第2咬脚下縁剛毛を見るようにとおっしゃっていました。


 今回、個人的に目的としていたヨコエビがいたのですが、標本をGETすることができませんでした。

 アマモがもう少し元気な時に来ればもっとアマモからヨコエビが採れそうな気がします。

 このメンバーでまたリベンジが出来ればと思います。









2017年6月30日金曜日

ROAD TO DESCRIPTION II (6月度活動報告)


 パンピーふぜいがどこまで学問に貢献できるか。

 小型甲殻類・ヨコエビの分類を巡る闘いの記録です。


※過去の経緯→(第一弾


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 私は研究者ではありません。

 何をもって研究者とするかは人によるかもしれませんが、普通に考えて「飯のタネとしているかどうか」だと思いますので、私は研究者ではありません。飯のタネとしていない故に、専門家でもありません。



 一昨年のことですが、これまで大いに研究をサボっていた私も、そろそろ顕微鏡を買うくらいの金も貯まったし仕事の融通も利かせられるんじゃね?ということで、やり逃げした仕事(新種記載)を片づけようとしたわけです。



- とりあえず進捗報告 -


1.標本
2.引用文献

 ⇒OK

3.記載文
 ⇒鋭意製作中

4.図
 ⇒難題です。

 記載に必要な図は基本的には描画装置を使用したスケッチですが、顕微鏡も描画装置も持ってないためこれを入手するところから始めます。


5.投稿先ジャーナル
  ⇒ほぼ決まり。

 国内誌でフリーアクセスの雑誌がありました。


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 ここまで、標本,文献,道具の探索・手配を進めてきましたが、初記載論文の投稿にあたって足りないものはまだあります。

 例えば指導者です。



 大学などの研究機関に所属せず専門分野でもなかったという環境の中で、働きながらヨコエビの記載を手掛け、現在も次々に日本のヨコエビを記載されているA博士の場合も、最初の記載論文はやはりヨコエビ界の権威に見てもらったとのことです。


 1種の記載論文はいわば事務書類のようなもので、種を特徴付ける形質のコンビネーションを常識的に判断・記述していくだけと言えるでしょう。

 過去の近似種の論文をいくつか読んでいれば、世に問うに値するだけの判断基準やフォーマットというものが分かってくるもので、それを追いかければよいのです。

 6月初めの分類学会ではT博士にも、オリジナリティを出すのはもっと先でよいとのお言葉を頂き、平身低頭ありがたく頂戴したわけですが、しかしながら、ということで、私の中にある別の懸念というのが若干ではありますが上位分類階級の見直しを含むということで、ここはロジックを研究せねばなりません。

 ということで、文章を作るにあたって少しばかりややこしい問題をはらんでいるのが現状です。

 先例を参考にスマートに決めたいところですが、記憶にある上位分類の見直し(統合)の事例、Paragrandidierella属をGrandidierella属に含めようとした某論文は根拠も薄弱で何の参考にもならず、OdiidaeOchlesidaeに含めた論文もかなりあっさりしていて、しかもどちらも現在は否定され、分けるべきということになっています。

 これまで上位分類を分けた事例は数知れず、統合した事例というのは笑ってしまうほどありません。真っ向勝負をする場合、丸写しできるネタがないのです。

 私が取り組んでいる分類群では、過去に、私がやろうとしているのと全く同じ操作(統合)を試みた研究はあるものの、言い方がマイルドすぎたのか、その後の知見にはあまり反映されていません。今回はその論文を利用してさらりと流す方法を模索することにします。


 
 そんな中、私のような下級戦士にも光明が差してきました。ハード面とソフト面の問題を解決する機会が巡ってきたのです。





 
 つくばに移転した国立科学博物館の研究施設です。

 特別なお取り計らいにより、こちらの設備の一部を使わせて頂けることになりました。


 これまでヨコエビの研究に関して、断片的な情報のアドバイスや文献の無心はしたことがあるものの、本格的に誰かに師事したことがなかったのですが、今回は細かな指導までつけて頂けることになりました。

 いやはや・・・

 かたじけない・・・




 ハードの見通しがついたというところで、記載にあたって必要なものは、あとは本人の力量というところまできました。


 文章については、投稿する前にnativeのチェックを受けることが必須という注意を受けました。 重要なのはやはり人脈ということのようです。上位分類見直しのロジックについてはやはり参考にできる事例はあまり聞いたことがないものの、さらっとできる方法があればそれでよいということになりました。


 については、他の研究者のスケッチをよく見て表現を学ぶことが重要ということで、これまでと違った目線で論文を読み直したいと思います。

 必然的に、富川・森野2009に則った方法でのスケッチとなるわけですが、描画装置を用いてケント紙に下絵を描き、それに墨を入れるという流れです。

 スケッチをせずに記載をすることは不可能ではありませんが、代わりとなる写真の撮り方を研究しているうちに何種分ものスケッチができそうです。
 ヨコエビの絵はたくさん書いてきましたが、だいたい自分用の模式図ばかりを作ってきたため、その標本の図であるという本気のスケッチというものは初めてです。

 描画装置というものを初めて使ってみて、目視で見当をつけて絵を描くのとは全く違う作業であることに気が付きました。線をなぞっていく、一種の習字のような趣を感じます。

 自分用の図を書く時はフリーハンドでやってきて、不具合を感じたことはほとんどありませんでしたが、記載図となるとなかなか苦しいものを感じます。
 これまでのお絵描きでは、写真や線画をパワーポイントのオートシェイプでなぞって作った図も多いのですが、サンプルの写真を撮って同じ方法で記載図を作成するには難があるように感じます。写真で表現が難しい部分としては、焦点距離を調整しながら見えてくる関節の線であったり剛毛であったり、そういったディテールが挙げられます。これを正攻法でクリアするには深度合成処理を前提とした写真が必要で、その手間を考えるとやはりスケッチした方がマシです。


 ジャーナルについては、ほぼこれという雑誌に目星をつけることができました。人と会ったこと(学会に参加したこと)から候補が決まった部分があり、サイエンスはコミュニケーションでできていることを痛感しました。


 
 また進捗がありましたら更新します。




<参考文献>

-富川光・森野浩 2009. ヨコエビ類(節足動物門:甲殻亜門)の描画方法. 広島大学大学院教育学研究科紀要, 2(58): 27-3.



2017年6月2日金曜日

初・沖の大洲(5月度活動報告)


 船橋,市川,習志野,浦安に囲まれた東京湾最奥の浅海域・三番瀬。

 その三番瀬には、滅多に干出せず、しかし最良の環境をもった、幻の干潟が存在すると言われている。

 その名は「沖の大洲」・・・。




  噂には聞いていた沖の大洲、実は行ったことありませんでした。


 普段の散策会や調査では、歩いて行ける利点がある「ふなばし三番瀬海浜公園」の干潟が鉄板になりがちです。過去に行徳漁協旧潮干狩り場貝殻島周辺の干潟に船で上陸したこともありますが、沖の大洲はかなり西側(浦安側)に位置しており、三番瀬の中の各漁港からは船でもやや距離があります。


 三番瀬を拠点とするNPOでありながら調査や観察会イベントだけをやっていて、自分達の知見を増やす活動が疎かになっているのではと思うところがあり、今回は純粋な干潟遊び・散策をテーマとして、漁船をチャーターしてもらえるという幸運に恵まれ、干潟に向かいました。



 最干潮がお昼ということで、2時間前の到着を目指しましたが、 全 く 引 い て い ま せ ん 。


 


 陸からのアタックであれば汀線をうろうろして時間の潰しようがあるものの、ここは海の中。船上で待機かとドキドキしましたが、50cmくらいの場所があったのでとりあえず海中に下りてみました





 ちべたい!!!



 どこも引いていないので、 海中から何かを拾い上げていく感じの散策です。



 申し遅れましたがちなみに今回、あの「異色の干潟漫画」こと「ガタガール」の作者・小原ヨシツグ先生をお招きしております。

汐ちゃんと同じ道具がリュックから次々と出てきたので萌えました



 アオサや漂流アマモが目立つ中、シロボヤ礁が発見されたため引き揚げてみます。




 三番瀬の干潟、特に海浜公園においてカキ礁から外れたカキ殻などの硬質基質が混じることはあるものの、このようなホヤ礁はあまり見たことがありません。シロボヤそのものは干潟との相性が良いようで、カキ礁など付着するのに都合がよさそうな環境の発達度合いに関係なくそのへんで見かけますが、だいたい単体です。

 一般論として、付着生物の間にはかなりの密度でヨコエビが棲み込みを行います。




 ますはヒゲナガヨコエビ科Senticaudata亜目)。広義のモズミヨコエビAmpithoe validaと思われますが、成熟したオスは得られておらず、現場での種同定は見送りました。



 そしてドロクダムシ科Senticaudata亜目)。黒い模様が鮮明で、トンガリドロクダムシMonocorophium insidiosumに見えましたが、オスの第2触角の剛毛がほとんど発達しない個体がみられたため違うようです。アリアケドロクダムシM. acherusicumか、はたまた違う種かもしれません・・・


 そして、過去の三番瀬でほとんど見たことがないカマキリヨコエビ属JassaSenticaudata亜目)が豊作でした。




 
 東浜に打ち上げられたアマモ上にてフトヒゲカマキリヨコエビJassa slatteryiを採取したことがありますが、今回は別種と思われます。

 シロボヤの根元には砂泥が固まっていて、Jassaもホヤの根元にへばりつくようにしていました。メスや小型の個体も多く、ここは以前のようにメインの生息地から外れた場所ではなく、世代を繰り返していると考えられます



 そしてこちらは三番瀬初(自己)です。
 


 タテソコエビ科Amphilochidea亜目)です。

 東京湾の中では、例えばお台場の埠頭(硬質基質環境)で、ヒドロ虫の間なんかで見られますが、砂干潟とは縁の薄いヨコエビです。





 あちこちに、澪筋や漁業権を示すのに使われる竿が刺さっているので、その周りを確認してみます。
 



 ロープには大量のシロボヤ。どうやらシロボヤ礁の供給源はここのようです。

 しょっちゅう干出する干潟面の竿ではこれほどシロボヤが育つことはないのでしょう。沖側の竿まわりで発達したシロボヤが剥がれて干潟面で礁を形成しているようです。


シロボヤの塊をガサるとワレカラがいっぱい




 そうしているうちに、干潟が干出してきました。


 さっきまで海の真ん中だった場所に忽然と現れる地面!これはすごい!


 この写真では浦安の地先と近いように見えますが、実際はこの間に澪筋があり、とても歩いて行き来することはできません


リップルがなかなかいい感じ。三番瀬らしい景色です。


 周りにはツバサゴカイの棲管のペアがあちこちに見られます。
 そのほか、タマシキゴカイのモンブラン、キセワタ、トゲナガクモヒトデ科、そしてマテガイの子供。


 ツバサゴカイもマテガイも三番瀬を代表する干潟生物ですが、海浜公園の東浜では今やほとんど見られません。


キセワタがたくさん落ちている場所があった


トゲナガクモヒトデ科



 ヒガタチロリ,クモヒトデ,マテガイ,タマシキゴカイなどは干潟面に出てきており、だいぶ参っている様子でした。普段は海の底で涼んでいるということなのでしょう。

 
ジリジリと焦れったい風な感じの茹でタマシキ








 小魚が多いようです。


横たわっていた竹竿の裏にマハゼの子供

 ハゼのほか、ヨウジウオ亜目と思われる稚魚。
 あと、ヤガラっぽい頭の長いのがいるようでしたが、採取後に拡大した写真を拝見したところ、下顎が長く、サヨリの稚魚のようでした。


 フグっぽい影が横切るのも見えました。

杭の間を歩いていると手に当たってピチピチしていたイサザアミ

 
 小魚が多い要因の一つは恐らくこれです。
 バットで適当にすくっただけでこの密度。



 三番瀬全体的にアマモの流れ藻が散見されました。

 以前、台風の後に富津あたりから流されてきたと思われる大量漂着がありましたが、今回もそれと同じようなことなのか、もっと近くに未知の自生地があるのか、分かりません。

流れコアマモ
おそらく三番瀬の中に生えていたもの

 今回は移植アマモの経過観察も兼ねていましたが発見できず。
 良くは無いですがトライアンドエラーでまた移植の試みを続けます。

 人力で輸送できる程度のボリュームのアマモのパッチができたところで単年でアマモ場が復活するとは思っておらず、生息適地の探索や消失の要因などを探りたいと考えています。





小原先生「マメコブシは縁起が良いので・・・」


小原先生

 残念ながら、今回はマメコを見つけることができませんでした。



 マテの他にはアサリ,シオフキ,アカガイ(の仲間),ホンビノスなどの二枚貝が見られ、スゴカイイソメ,アラムシロ,エイなどの貝食者も多く見つかった中でマメコブシがいないのはなぜなのか、よく分かりません。

 潮干狩り場の方が二枚貝の密度が高く、マメコブシの密度も高いのかもしれません。



お わ か り い た だ け た だ ろ う か ? (ツバクロエイ)

 沖の大洲には巨大なビノスが落ちていたりして、深いところの影響はかなり大きいものと推測されました。マメコブシはもっと浅いところが好きなのかもしれません。



 ヨコエビ相の記述を充実させるにあたり、棲み込みとの関係の深さが改めて浮き彫りとなりました。今回は実施していませんが、例えばこのシロボヤを裂いてみたりして、新たなヨコエビの棲み込みが確認されたりするかもしれません。夢は広がります。


ドロオニスピオ(広義)の棲管